ヘパリン持続静注療法は、心房細動、心原性脳塞栓症、脳静脈血栓症、深部静脈血栓症などの疾患で、新規の血栓形成予防のために行われる。
tPA と違い、既に形成されてしまった血栓を溶解するものではない。
薬理
へパリンはアンチトロンビンⅢ(ATⅢ)と結合し、その作用を促進することで抗凝固作用を発揮する。
ATⅢ は肝臓で作られ、血液中に分泌される糖タンパクである。
凝血反応の中核的な存在であるトロンビン(第Ⅱa 因子)を阻害する働きを持つ。
へパリンの血中半減期は40〜90分。
網内系で代謝されるため、肝機能・腎機能の影響は受けないが、感染などで体内のATⅢ濃度が低下していたり、血栓量の多い症例などでは効きが悪くなる。
投与例
通常は未分画へパリン(UFH: unfracmonated heparin)を用いる。
へパリンノモグラム
ヘパリンの静注量を、ノモグラムを用いて機械的に決める方法がいくつか発表されている。
以下は一例。
- 最初に50U/kg 静注(最大量5,000Uまで)し、12U/kg/h で持続静注を開始する。
- 6時間後にAPTT採血を行い、以下の表に準じて持続量を調整。APTT の目標値は40-75秒。
2回目標値を達成したら、次の採血は翌朝でok。
APTT | ボーラス量 | 持続静注量 |
40 秒以下 | 2000U | 2U/kg/h 増量 |
40〜44 秒 | なし | 1U/kg/h 増量 |
45〜69 秒 | なし | そのまま |
70〜79 秒 | なし | 1U/kg/h 減量 |
80〜89 秒 | 30 分中止 | 2U/kg/h 減量 |
90 秒以上 | 1 時間中止 | 3U/kg/h 減量 |
希釈法
へパリン持続静注は通常、シリンジポンプで管理を行うことが多い。
インシデントを避けるため、希釈方法は各施設・病棟のローカルルールに従うのがよい。
以下は具体例。
1日投与量 x 単位。へパリン注(1単位/1mL)を希釈するとすると。
- 25cc シリンジ:ヘパリン注 x mL を生食希釈し計 25mL とし、1mL/h で投与
- 50cc シリンジ:ヘパリン注 x mL を生食希釈し計 50mL とし、2mL/h で投与
へパリン抵抗例
ヘパリンの抗凝固能に対する効果には個人差がある。
UFH 投与量は通常、APTT で 1.5〜2.0 倍の延長を目標として調節するが、35,000 単位/日以上の投与で治療域下限に達しない例を、ヘパリン抵抗と呼ぶ。
原因としては、以下のようなものが考えられる。
❶ ATⅢ 低下
UFH は ATⅢ の働きを促進することで抗トロンビン作用を生じるため、ATⅢ 低下状態では作用は減弱する。
一般に、血中のATⅢ が 60% 以下に低下するとヘパリン抵抗を示す。
ATⅢ 欠乏の要因としては、
- 先天性:先天性アンチトロンビン 3 欠損症
- 後天牲
- 感染症、敗血症
- 多発外傷、火傷
- 悪性腫瘍
- 体外循環 etc.
などが考えられる。
また、UFH の使用自体でも ATⅢ が消費されるため、治療で大量の UFH を長期間使用することでも ATⅢ は低下する。
ATⅢ が60%以下に低下すると、静脈血栓の発生リスクはかえって高まることになる。
このため、UFH を長期に投与する場合は適宜 ATⅢ の測定を行うことが望ましい。
❷ Heparin CofactorⅡ (HCⅡ) 低下
ATⅢ 欠乏同様、UFH はHCⅡという cofactor が低下すると抗凝固作用を発現できない。
頻度は稀である。
❸ 顆粒球工ラスターゼ
高エラスターゼ症例では、ヘパリン投与により ATⅢ が分解されることで、十分な抗凝固作用が得られなくなる可能性がある。